筆者がファンだった、音楽家のゲイリー・ピーコックは一昨年亡くなってしまった。
一度だけライブを見に行ったことがある。1999年だったと記憶しているが、
会場はサントリーホールの小ホールだった。
ピアノトリオのライブで、ウッドベースがゲイリー・ピーコック、ドラムスはPaul Motian(ポール・モチアン)だった。
この2人がピアノトリオで演奏するのは滅多にないこととされている。
レコード・CDの記録媒体で残っているのは、Bill Evans、Paul Bley、Keith Jarrett、Marrilyn Crispell、Marc Copland、Martial Solal、菊地雅章の7人(いずれもピアニスト)だけだ。
オファーはたくさん来たと思うが、明らかに共演者を選んでいたのだろう。
このビデオのピアノトリオのドラムスはポール・モチアンではないが、ゲイリーはキースジャレットとともに、Keith Jarrett Standard Trioとして独レコード会社のECMで多くのアルバムを残している。
多くのスタンダード曲の中でも、このモナリザはとても胸に来る。
冒頭でゲイリーがメロディーを奏でる。
何でもないようなことに思えるが、ゲイリーがこんなに長い時間、メロディーのほぼ全曲をピチカートするのは極めて珍しいことだ。
あれほど難解なベースラインを弾く演奏家が、こんなに素朴なメロディーを一音一音奏でている。
本当に奇跡的だ。
このライブ演奏はCDになっている。しかし、この冒頭のゲイリーのソロはすべてカットされている。
恐らく、ECMレーベルのカラーとして似つかわしくなかったのだろうと思う。
途中で突然、ゲイリーが敢えて数音加え、原曲のメロディーを外しているが、キースは見事にこれに応じている。
ゲイリーは生前、「一晩(の演奏)で一音だけでも良い音があればそれで良い」と言っていたそうだ。