少し古い話になる。
一昨年2019年8月7日に岩手県の陸前高田市を仕事で訪れた。
陸前高田には、東北大震災の発災で津波が襲った時に、流されずに残った松の木がある。
最寄駅から乗ったバスの窓から、終着に近くなった頃に見ることができた。
震災直後に「奇跡の一本松」として報道されたのは記憶に新しい。
海岸からしばらく小高い丘を登ると、文化ホールがある。そこで復興を祈念する集いが開かれ、取材に行った。
エンディングの催しとして、坂本龍一と東北ユースオーケストラの団員4人の5重奏による演奏が披露された。
東北ユースオーケストラは坂本龍一に率いられており、東日本大震災で被災した東北3県出身の小学生から大学生までの約100人で編成されている。
この日集まった4人の団員は、4弦楽(ヴァイオリン2挺・ヴィオラ1挺・チェロ1挺)を担当した。
これらの弦楽器は、東日本大震災津波の流木から作られており、被災地復興の旗印となるよう願いを込めて陸前高田の「奇跡の一本松」の木片も用いられているという。
坂本龍一が震災直後に作曲した「絆ワールド」で幕を開けて、「アクア」「美貌の青空」「レイン」と続き、YMO(イエローマジックオーケストラ)の曲目である「ビハインド・ザ・マスク」を弦楽重奏向けにアレンジして演奏した。
最後の2曲は、代表曲の「ラストエンペラー」と「メリークリスマス・ミスターローレンス」。
長いこと、各種の記録媒体では聴いてきたが、坂本龍一の演奏を生で観るのは、これが初めてだった。
聴衆は、地域住民ほか東北他県から集った、必ずしも熱烈なファンとはいえない普通の人々。1000人くらいはいただろうか。
拍手が鳴り止まずに、坂本龍一と楽団員は、ずっとスタンディングで応じていた。
聴衆にとっても、奏者にとっても、素直で実直な反応だったのだと思う。