ジレッタント 彷徨と喜憂

物見遊山が好きです

スカンジナビアデザインのこと③

スカンジナビアのプロダクツがある店にはよく通った。

 

ビームスの玉川高島屋店にも行った。ここは店内の内装が変わっていて、オープンなスペースの、一段高い場所に独立したデザインプロダクツのコーナーを設けていた。

新宿店とは若干品ぞろえが異なっていた。

 

この店では、ウェグナーがデザインした3本足の白木のイスが目に付いた。フリッツハンセンの4103か、PPモブラーのプロダクツだったと思う。俗に言うハートチェアそのものか、ウェグナー自身がリデザインしたイスだ。

 

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現品限りということで、今考えると破格の値段だった。その後、廃盤になるという話だった。

 

 

やはり、そこでもイスをずっと観察した。モダンというよりも、エスニックやフォークアートといった言葉のほうがマッチするように感じた。いつも1時間くらいは見たと思う。

 

今では、3本足のタイプのビンテージ品を多く見かけるが、白木の新品の状態で見たのはこれが最初で最後だった。とても鮮明な印象を持っている。

 

また、松屋や新宿小田急ハルクにも、スカンジナビアのコーナーがあったので、何度も訪問した。さすがにデパートだけあって、ザ・チェアやチャイニーズチェアなどウェグナーのラインアップのなかでも高級品をそろえていたので、遠くから眺めていたっけ。

 

私にとっては、もうひとつ重要な拠点があった。パークタワーのOZONEにあるスカンジナビアコレクションだった。

今ではノルディックフォルムと名前が変わっている。当時は確か、3階の隅の目立たない場所にあったはずだ。

 

何回か通っているうちに、佐藤さんという女性の店員と話すようになった。(当時は、インテリアショップの店員は例外なく女性だった。デザインやインテリアは、女性の領域と認識されていたからだと思う。)

 

佐藤さんは、一通り説明したり雑談すると、事務仕事に戻って、「後は好きに見て行ってください」という

スタンスだった。私には、スカンジナビアモダンを理解するまでに相当の労力が必要だったから、私のスカンジナビアプロダクツ選びと佐藤さんの鷹揚さの相性は抜群だったと思う。マネージャーの小林さんも、そのことは承知していてくれた。

 

ある日、訪ねると、白い布が掛かった幾分、大きなものが置かれているのに気付いた。

佐藤さんは、「Ib Kofod - Larsenがデザインした、通称エリザベスチェアのソファ」ということを教えてくれた。復刻版が出ているが、このソファはオリジナルで、ほとんど使われずに布をかけて保管されていたという。

 

とても良い形だった。同じプロダクツは、北欧のサイトをずっと見ているが、出会ったことがない。おそらくは、現在の市場価格(こういった品物は、投資の対象になっているようなので、それなりの店舗で取り扱われる)の10分の1くらいの値段だった。

 

ともかく、この店も重要な拠点となるわけだ。

 

それから、忘れてはならないのが、幡ヶ谷にあったDsain(ディーサイン)。

 

古民家を改造して作った、店内は吹抜けの広々とした空間で、カールハンセンやPPモブラーのウェグナーのプロダクツが多数展示されていた。奥には、メンテナンス工房があったようだ。後になって、1999年だったか、デイベッドなど往年のゲタマの名作が復刻されて店内に並んだ。照明の使い方が効果的で、アトリエか画廊のような趣だった。まさに唯一無二の風情だったが、残念ながら今は青山の近代的なビルに移転してしまった。時代の流れだろう。近代化されたショールームには行ったことがない。

 

 

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丸脚がオリジナルと言われている。現行品の脚は四角。



 

モダンといえば、1990年代は多彩な人材がクローズアップされた時代で、多くのモダンデザイナーが登場した。

 

ただ、モダニズムという意味のモダンではなく、ポストモダンを越えた、いやポストモダンを経過してモダンに回帰した、という意味が大きかったと思う。

 

ジャスパー・モリソン、クリストフ・ピエ、フィリップ・スタルク、アントニオ・チッテリオ、ピエロ・リッソーニ、ロン・アラッド、リチャード・ハッテンなど。

 

彼らのプロダクツがそろっているヤマギワやE&Yにも顔を出したけれど、彼らが表現するモダンは直感的にすぐに理解できた。

 

 

それに比べると、北欧モダンに対する理解はなかなか進まなかった、というのが本当のところだった。